岐阜地方裁判所 平成7年(わ)44号 判決
本籍
岐阜県各務原市鵜沼五八六二番地の二七
住居
同右
団体役員
前田信子
昭和二七年七月一八日生
国籍
韓国
住居
岐阜県各務原市鵜沼五八六二番地の二七
団体役員
加藤健一こと朱健一
一九五一年二月七日生
右両名に対する各所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官作原大成出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人前田信子を罰金一七〇〇万円に、被告人加藤健一こと朱健一を懲役一年二月に処する。
被告人前田信子において、その罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人労役場に留置する。
被告人加藤健一こと朱健一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人前田信子は、平成六年二月ころまで岐阜県各務原市鵜沼五八六二番地の二七において、真伝不動明王寺の屋号で霊視、悩み事相談、祈願、供養などの事業を営んでいたものであり、被告人加藤健一こと朱健一(以下「被告人朱」という)は右同日ころまで被告人前田の右事業の経理及び財産の管理などを統括していたものであるが、被告人朱は、被告人前田の業務に関し所得税を免れようと企て、その所得から相談料、祈願料などを除外する方法で所得を秘匿したうえ、
第一 平成四年分の被告人前田の総所得金額が九七六九万九一一六円で、これに対する所得税額が四四〇〇 万九二〇〇円であるのに、平成五年三月一五日、岐阜市加納清水町四丁目二二番地二所在の所轄岐阜南税 務署において、同税務署長に対し、情を知らない安藤豊を介して平成四年分の総所得金額が三八八一万八 二四九円で、これに対する所得税額が一四七七万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し 、もって、不正の行為により同年分の所得税額二九二三万〇二〇〇円を免れ
第二 平成五年分の被告人前田の総所得金額が九三〇九万五八四九円で、これに対する所得税額が四〇五五 万一七〇〇円であるのに、平成六年三月三日、前記岐阜南税務署において、同税務署長に対し、情を知ら ない山下永夫を介して平成五年分の総所得金額が二七六一万一八五四円で、これに対する所得税額が七八 九万〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の所得税 額三二六六万一一〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)(なお、以下の括弧のうち甲または乙は検察官請求証拠等関係カードの分類を、これに続くアラビア数字は同カード記載の請求番号を示す)
判示事実全部につき
一 被告人両名の当公判廷における各供述
一 被告人前田信子の検察官に対する供述調書(乙1)
一 被告人朱の検察官に対する供述調書(乙5、6)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(甲3ないし24)
一 大森珠美(甲25)、都築佳代子(甲26)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の写真撮影報告書(甲32、33)
一 検察事務官作成の捜査報告書三通(甲35ないし37)
判示第一の事実につき
一 第四回公判調書中の証人安藤豊の供述部分
一 大蔵事務官作成の証明書(甲1)
一 安藤豊の大蔵事務官(甲27)及び検察官(甲28)に対する各供述調書
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の証明書(甲2)
一 山下永夫の大蔵事務官に対する供述調書二通(甲29、30)
(補足説明)
弁護人は、被告人朱は真伝不動明王寺(以下これを単に「寺」という)の経理につき責任を持っていたので、平成四年分の税金の申告について、平成五年二月ころ安藤豊に相談したところ、寺はみなし法人で申告の必要がないといわれたため、寺の所得である相談料、祈願料、供養料などの申告をせず、相被告人の印税収入だけを申告したのであるから、平成四年分の所得については脱税の意思がなかったと旨主張し、被告人朱もその旨述べる。
しかし、被告人らから真伝不動明王の宗教法人設立手続きの依頼を受けその最中であった行政書士の安藤豊が、設立認可申請中の宗教団体はみなし法人となり、税金を申告しなくてともよいという、およそありもしない話をしたということそれ自体がきわめて不自然であるばかりが、仮に安藤が弁護人主張のようにいったとしても、宗教法人化の理由として免税措置を受けるためだと被告人朱が捜査段階で述べておること(この供述は、同被告人が事業を以前経営し多少の税務知識があったことや被告人らが法人化を急いでいたことなどから十分信用することができる)からすると、被告人朱が安藤の右話を真に受けたとも思われず、しかも、平成三年分と平成五年分の各所得につき脱税の意思のあった同被告人に、その間の平成四年分だけ脱税の意思がなかったということも不自然であり、その他同被告人が寺の経理帳簿を付けていなかったこと等の諸事情を併せ考慮すると、同被告人の前記供述は信用できない。
そして、被告人朱が、平成四年分の被告人前田の収入として、印税のほか、講演料、信徒からの相談料、祈願料、供養料などのあったことを認識していたことは、被告人朱の自認するところであるばかりか、前掲関係各証拠によっても十分認められる。してみると、被告人朱は、被告人前田にこれらの所得があることを知りながらその一部のみを同被告人の所得として申告したのであるから、被告人朱に平成四年分の被告人前田の所得につき脱税の意思のあったことは明らかである。
してみると、弁護人の前記主張は理由がない。
(法令の適用)
一 被告人前田について
被告人前田の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、二四四条一項に該当するが、情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、改正前の同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内において被告人前田を罰金一七〇〇万円に処し、右罰金を納めることができないときは同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は刑法一八一条一項本文によりその二分の一を同被告人の負担とする。
二 被告人朱について
被告人朱の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、二四四条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、改正前の同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人朱を懲役一年二月に処し、情状により改正前の同法二五条一項を適用してこの裁判の確定したときから三年間右刑の執行猶予し、訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文によりその二分の一を同被告人の負担とする。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑・被告人前田に対し罰金二〇〇〇万円、被告人朱に対し懲役一年二月、弁護人・簑輪幸代)
(裁判官 澤田経夫)